ラストダンスは私と一緒に                      



 日が変わって午前三時。
 春の夜の霞んだ月明かりを受けて、バーネット以下三十名のM中隊員を乗せた輸送ヘリが爆音を響かせて飛んでいた。
 殺風景な機内で、カレンは目を閉じて瞑想していた。アサルトスーツと防弾ベストに身を包んで、手袋をした手には自動小銃を握っている。
「経過と現状を再度説明しておく」
 インカム越しに、副官のレイトンがブリーフィングを始めた。
「現場は郊外にあるラングラー・ハイスクール。昨夜午後七時頃、【西ナンドラ民族解放戦線】を名乗るテロリスト十名がこの高校を襲撃、警備員二名を射殺した上、人質を取って立てこもった。昨夜は卒業を目前に控えてプロム(舞踏会)が開かれていて、父兄として参加していたハーグ上院議員を狙ったものと思われる」
「要求は? 出たのか?」
 バーネットの問いに、レイトンはいささか嘲笑気味に答えた。
「いつものヤツですよ。『刑務所に収監されている仲間を解放しろ』ってね。要求が聞き入れられない場合は人質を順番に殺していく──お決まりのパターンです」
 別の隊員が質問を投げかけた。
「人質は? 上院議員だけですか?」
「いや……ハーグ上院議員とその娘、学校長や教職員、生徒を含めて総勢三十名程いる」
「確かに人数は多いですが、それなら我々でなくともSWATで充分な気もしますが」
「ハーグ上院議員はテロ対策の急先鋒と言われてるからな。政府としてもオレたち出して本気なところ見せたいんだろ。ま、理由はそれだけじゃないけどさ」
 横から口を挟んだバーネットに、レイトンは横目で頷いて見せた。
「我々マジシャンが出動した主な理由は二つ。まず一つは、ハーグ上院議員が重度の糖尿病であり、且つそれを隠しているということだ。上院議員は一日四回のインスリン注射が必要な身体なんだが、勿論人質になるなんてことは想定してないので、予備の注射は携帯していない。最後の注射をしてから今でおよそ八時間……あと数時間のうちに高血糖による昏睡状態に陥る危険性がある。テロリストたちは悠長に構えているが、こっちにはそんな余裕はないってことだ」
「もう一つは?」
「これは出発直前に入ってきた最新の情報なんですが……」
 そういってレイトンはバーネットを意味ありげに見つめる。
「先に解放された人質の証言によると『大きな機関銃のようなものが中にあった』と……」
 バーネットは苦笑した。
「おいおい、まさか中に五十口径持ち込んでるってんじゃねぇだろうなぁ」
 だがレイトンは真面目だ。
「どうもそのようです。しかも二基のようで」
「そんなデカブツがあるんじゃ、SWATじゃ手に余すわな」
「そう、それが二つ目の理由です。と言ってもこれは僕の推測ですけどね」
 そう言ってレイトンは端正な顔に含み笑いを浮かべた。
「しかし五十口径たぁ、えらく大荷物じゃねぇか」
 バーネットの言う五十口径とは、口径十二.七ミリの重機関銃の事だ。非常に重く、通常は室内に持ち込んだりしない。簡単に持ち運びできる代物ではないのだ。
「それが……どうも『持ってきた』感じではなさそうなんです。テロリストたちが襲撃してきた際、そんな大きな荷物はなかったみたいなんですよ」
 バーネットの青い瞳がキラリと光ったように見えた。
「……事前に校内に持ち込まれてた、と?」
「かもしれません」
 レイトンは重々しく頷いた。
「ふーん……」
 バーネットは壁に背を預け、思案顔で天井を仰いだ。何か思うところがあるのだろうか。
 その時、操縦席から連絡が入った。
『現場が見えてきました。まもなく降下地点です』
「現場到着後、最終ブリーフィングの後、国務長官からの突入命令を待つ」
 レイトンの指示に、全員が頷いた。

 東の空が白んできた。夜空のグラデーションが徐々に薄くなりつつある。夜明けが近い。
 小高い丘の上、緑の芝生に囲まれた白亜の洋館──これがラングラー・ハイスクールだった。周囲は人や車両でごった返している。
 そんな中カレンの目を惹いたのは、規制線の外に群がるドレス姿の女学生たちだった。先に解放された人質だろうか、事件発生から半日近く経っているのに未だ捕らわれている仲間を心配してここに残っているようだ。
 敷地内にある講堂で卒業パーティとも言えるプロムナードが開かれていたところに、テロリストたちが乱入してきた。大半はすぐに解放されたが、ハーグ上院議員をはじめとする三十五人の学生と教職員は、未だ人質として校内に拘束されている。
「今、講堂は空っぽだ。人質は講堂からその横にある二階建て校舎の二階に移されて、十人の敵さんも全員校舎の方にいる。サーモで見た感じ、配置は一階に六人、二階に四人だな。人質部屋に二人だ。重機関銃は二つとも一階。校舎の南北の入り口に一基ずつという配置だ」
 バーネットが見取り図を基に隊員に状況を説明していると、レイトンが遠くから走ってきた。
「隊長。国務長官から突入命令、出ました」
「ったく、お偉いさんは人使いが荒いよ。特別ボーナス出してくれんかね」
 そう言ってバーネットは頭を掻くが、誰も取り合わない。
「しゃーねぇな。んじゃ予定通り、Aチームはオレと一緒に一階北側、Bチームは一階南側のデカブツ押さえるぞ。ウィルのCチームは二階の窓から侵入、お客さんを救出しろ」
「了解」
「突入は夜明けと同時だ。ウィル、夜明けまで何分だ?」
「あと十五分です」
「よし、時計合わせろ」
 カレンはCチーム、人質救出班だ。時計を合わせながら、バーネットと別のチームになったことに少しホッとしていることに気がついて、自分を戒めた。
 作戦前に余計な事を考えているなんて、自分らしくない。昨日あんなことがあったせいか、気持ちに乱れが出ている。邪念を吹っ切るようにヘルメットとマスクをかぶった。
「配置に着け。ショータイムの始まりだ」
 バーネットの号令でチームは展開を開始した。
 Cチームは建物に梯子をかけ、屋根に上った。足音を忍ばせて人質が拘束されている教室の上にまで移動し、そこからそっとロープを垂らす。
 カレンはもう一度気を引き締めた。これから向かうのは戦場なのだ。一瞬の気の迷いが人質の命を、そして自分の命を失うことに繋がる。
 突入一分前。Cチームは両端に分かれ、ロープを伝わって窓の真横まで降下した。窓にはカーテンが引かれていたが、幸いなことにバリケードは築かれていない。
 カレンの横にいたレイトンと、反対側に降下したロイがスタングレネードのピンを抜き、同時に窓に貼り付けた。
 下から爆発音が響いてきたのは、その時だった。
 間髪入れずスタングレネードが爆発する。大音量の爆音で窓が割れ、溢れんばかりの閃光が辺りを包んだ。
「突入!」
 カレンは開いた窓に身体を滑り込ませた。中に降り立つと、閃光に怯んだテロリストの身体に自動小銃をすぐさま撃ち込んだ。
 一瞬の躊躇もない。テロリストが倒れても、完全に動かなくなるまで撃ち続ける。
 もう一人のテロリストもレイトンが始末したようだ。室内は煙に覆われていたが、複数の人質の姿も確認できた。皆怯えて、頭を抱えて小さく縮こまっている。
 ロイが教室を出て、廊下に飛び出していくのが見えた。カレンもすぐ後を追う。
「クソッ」
 廊下に二人いた敵がマシンガンを撃ってきた。ロイとカレンも応戦し、一人は倒れたが、もう一人は物陰に身を隠しなかなか倒せない。
 敵の太腿に弾が当たり、うずくまるのとほぼ同時だった。
「ウッ」
 ロイが呻き声を上げた。左手の手袋に穴が開き、血が流れ出している。
「ロイ!」
「カレン……悪い、あと頼む」
 力のない呟きに、カレンは頭に血が上るのを覚えた。
 ロイを背後に疾風の如く廊下を駆け抜け、敵に近寄る。何とか立ち上がった相手の腕を取りながら背後に回り、その身体を床に叩き付けた。そして銃口を向け、相手の動きを封じる。
 テロリスト全てを制圧した瞬間だった。

「……優しいとこもあるんだな」
 ロイがふと呟いた。
 負傷した左手に応急処置を施していたカレンが顔を上げると、廊下に座る彼は痛みに顔をしかめていたが、その表情はどこか明るかった。
「……当然のことです」
「違う、さっきだよ。オレのこと庇ってくれたんだろ? ありがとうな」
 カレンは答えなかった。何と答えればよいかわからなかったからだ。
「頬が赤いぞ。照れてるのか? そんな顔もできるんだな」
 褒めているつもりだろうが、その言葉は今のカレンには逆効果だ。腹立ち紛れに立ち上がり、無線をつけた。
「隊長」
『よおレッド、首尾はどうだ』
「二階はテロリスト三名死亡、一名確保です。こちらはロイが左手を負傷しましたが、それ以外の損害はありません」
『こっちは敵さん全員死亡ってとこだな。手榴弾でブッ潰したからしょうがねえけどな。アッハッハ』
 笑い事ではないだろうに。勿論計算してのことだろうが、大胆なのか無謀なのかわからない男だ。
『人質は?』
「今副官が確認中ですが、負傷者はいない模様です。ハーグ上院議員も衰弱はしてますが、意識ははっきりしてます」
『隊長』
 教室の中のレイトンが無線に割り込んできた。
『人質が一人足りませんね』
『んあ? 足りない? 敵さんは十人全員死んだか確保したよな』
『はい。ですが何度数えても一人足りないんですよね』
『怪談かっつーの。誰がいない?』
 暫しの間の後、レイトンが答えた。
『……校長のようですね。随分前にテロリストに連れて行かれたそうです』
『……校長?』
 それっきりバーネットは黙りこんだ。何を考え込んでいるのだろうか?
 教室にいないのであれば、校内のどこかにいるはずだ。テロリスト全員が死亡ないし捕まった今、存分に探しに行けばいいだけのことだ。何を悩むことがある?
「私が探してきます」
 じれったくなって、カレンは無線越しに言った。
『ちょっと待て。そっち誰か他に手ェ空いてるのか?』
 バーネットの声が珍しく慌てている。
「私一人で充分です。そのくらい一人でできます」
『ダメだ。こっちから応援送るからそれまで待て。ああ、オレが一緒に行ってやるよ』
 カレンの中で何かが切れた。
 今最も聞きたくなかった言葉を、バーネットは言ってしまったのだ。無線を一方的に切り、それ以上の指示を遮った。
 自動小銃をロイに渡し、携帯していた拳銃を手にする。引き止めようとするロイを振り切って、カレンは単独で探索を始めた。
 二階をくまなく探すが、校長らしい人影は全く見えない。二チームが両側から突入した一階はもう既に探索済みだろう。この校舎にはいないのかもしれない。
 二階の渡り廊下を進み、階段を下りるとそこが講堂だ。だがそこは無人のはず。
 講堂の前を通り過ぎようとしたカレンの耳に、ふと、音楽が聞こえたような気がした。クラシックのような管弦楽の音だ。気のせいかと思ったが……いや、本当に聞こえる。
 閉められたドアに張り付き、中の様子を探る。物音はしないが、優雅な旋律だけが響いているようだ。
 ドアを小さく開けて中を覗き込む。日が昇ったばかりで、西向きの講堂はまだ薄暗い。華やかな飾りつけとテーブル上に残るグラスが、ここがプロムの会場だったことを思い出させる。
 開けた講堂の中央に人影を一つ見つけることができた。背中しか見えないが、背広を着た初老の紳士の背中は校長のものだろう。周囲に敵がいないか慎重に確認する。
 事件が収束した今、校長はここで何をやっているのだろう? 身柄を拘束されている様子はない。不思議に思いながらも、カレンはドアを開け中に入った。
「ユエン校長ですね。ご無事ですか?」
 カレンの呼びかけに、ユエンは肩越しにこちらを向いた。
「……君は?」
 やつれてはいるが、声も表情も落ち着いている。カレンはゆっくりと近づいた。
「陸軍特殊部隊の者です。救出に参りました」
「そうか……」
 ユエンが振り返る。
 その手に握られていた大口径の拳銃──それに気づいたときには既に、カレンは撃たれていた。
 胸と腹に二発。息が止まり、骨が軋む。着弾の衝撃で身体が仰向けに倒れた。
「……っく……」
「防弾ベストか」
 倒れたカレンを見下ろすように、ユエンはなおも銃口を向けてきた。
 防弾ベストで弾丸の貫通は防いだとはいえ、その威力までは完全に殺せない。倒れた弾みで持っていた拳銃は遠くに飛ばされてしまった。
「……な、何故……」
「何故私がこんなことを──とでも聞きたいのかね、お嬢さん」
 見上げたユエンの目は至って冷静だ。
 カレンは答えなかったが、ユエンはひとりごちるように静かに語り始めた。
「私は実はナンドラ人でね。とはいえこの国で生まれて市民権も持ってる。戦争ではエリシオ軍の兵士として現地に行ったんだよ。でもそこで……私は自分がナンドラ人であることを痛感してしまった。自分によく似た同胞が次々と殺されていく……そんな様を見てね、エリシオのような大国どもに弄ばれ蹂躙される祖国を、同胞を、私は助けたいと思ったんだよ。だから彼らに手を貸した」
「……機関銃を持ち込んだのも、あなたが?」
 ユエンは頷いた。彼が事前に手配して校内に用意しておいたのだろう。今日プロムがあることも、そこに上院議員がくることも、全て彼がテロリストたちに情報を流していたのだ。
「首尾よく終われば、彼らと一緒に逃げるつもりだったが……そういうわけには行かなくなったようだね。捕まるくらいなら私はここで死にたい。私が生きた証を、この学校に残したいのだよ」
 講堂に響くワルツの優雅な調べを、レクイエムにするつもりだ。
 ユエンはおもむろに背広の前ボタンを開けた。
 腹部に巻きつけられたプラスチック爆弾。左手に起爆装置を握っている。
 ユエンの目が狂気に揺らいでいた。
「一人で逝くつもりだったが……地獄への長い旅路、道連れがあるのもいいね。お嬢さん、私と一緒に堕ちてもらおうか」
「断る」
 未だショックが残る身体は思うように動かず、立ち上がることもできない。
 だがカレンは毅然と答えた。
「私は絶対に死なない。最後まで生き残るのが私の使命だ」
 バーネットが相手だと動揺してしまう自分が嫌で、さっきは命令を無視してしまったけれど──部下として、この命令だけは絶対に守りたい。
 自分のため、そしてバーネットのために。
 銃口を突きつけられ、爆弾を目の前にしながらも、視線をあちこちに走らせ手探りで生き残る術がないか探す。自分の心臓が鼓動を止めるその瞬間まで、もがいて足掻いて、何が何でも生き残ってやる。
「同意を得られないのは残念だが、やっぱり一緒に来てもらうよ」
 ユエンの左腕が動いた。ボタンを押す気だ。
 ──死んでたまるか……隊長の赦しなくして、私は死んではならない!
 ユエンが決意の微笑を浮かべた、その瞬間だった。
 ワルツを切り裂く──一発の銃声。
 ユエンが顔を歪め、左腕を押さえていた。起爆装置が音を立てて床に落ちる。彼は呻いた。
「神よ……」
 次の瞬間には、ユエンの額を弾丸が貫いていた。
 その身体が、ゆっくりと倒れる。
 カレンは振り返った──そこで見たものは、講堂の入り口で拳銃を構えるバーネットの姿だった。
「隊長!」
 叫ぶ声が変に上ずる。
 バーネットは拳銃をしまうと、カレンに歩み寄ってきた。
 目の前で足を止め、床の上でへたり込む自分を見下ろす。呆れたように笑うその表情に、カレンはふと我に返った。
 自分は命令違反をしたのだ。隊長の指示に背き、単独行動をした結果がこれなのだ、と。
 カレンは叱責を覚悟したが、バーネットがかけた言葉は意外なものだった。
「何て顔してやがる……お前にそんな目で見つめられたら、どんな男でもイチコロだなぁ」
「……え?」
「涙目だぞ」
 そう言われて、カレンは初めて自分が涙を浮かべていたことに気づいた。急に恥ずかしくなり、手の甲で涙を拭うと、目の前に手が差し出されていた。
「ほれ」
 促されて、手を取る。しっかりと握られたその手の力強さに、カレンは言い知れぬ安堵感を覚えて胸が震えた。
「立てるか」
 足元がまだ少しふらつくが、手を引かれて何とか立ち上がる。
 手を離すと、途端に気まずくなった。いたたまれなくなってカレンは俯く。
「あの……すいませんでした」
「野暮なこと言うなよ。こうして生きてるんだ、それでいいじゃねぇか」
 バーネットは微笑んだ。
「お前は最後まで生き残った。それだけで充分だ」
 また……泣きそうだ。目頭が熱くなって、涙が溢れそうになる。顔を背けて涙を隠そうとしたその時、不意に腹と胸に痛みが走り、膝が折れた。支えを失って崩れ落ちそうになる身体──バーネットがとっさに片手を掴んだ。
「おっと」
 次の瞬間、カレンの身体はバーネットの右腕で抱きとめられていた。
 青い瞳が、すぐ目の前にある。その中に映る、自分の姿さえはっきりわかるほどに。
 心臓が激しく脈打ち、息が止まる。
 バーネットの腕の中にいる自分が、信じられなかった。
「……ワルツでも踊ってるみたいな格好だな」
 バーネットが唇を歪めた。
 彼の身に染み付いた硝煙の匂い。それさえも近くて、眩暈を起こしそうだ。
 このまま──きつく抱きしめられてしまったら──
 激しい動悸に翻弄されて、そんな妄想すら抱いてしまう。
「一曲踊るか? ラストダンスは私と一緒に──なんつって」
 そう言ってバーネットは笑うが、カレンの心臓は爆発寸前だ。血迷って、苦し紛れにカレンはらしくないことを口走っていた。
「せ、せめてドレスを……」
 バーネットが、一瞬ポカンとする。が、それはすぐに高笑いに変わった。
「そりゃそうだ。こんな服じゃ雰囲気もへったくれもねぇもんなぁ。オレもお前のドレス姿、見てみたいよ」
 タキシードを着たバーネットと、華やかなドレスに身を包んだ自分と──
 それもいいかな、と思ってしまった。もっとも、この男がダンスを踊れるのかは甚だ疑問だが。
 バーネットの腕から解放されたカレンは、自分の足でしっかりと立った。
「それだけ冗談言えれば、もう大丈夫だな」
 バーネットは先立って外へ通じるドアを開けた。朝日が目一杯差し込み、眩しさにカレンは目を細める。
「レッド、行くぞ。みんな待ってる」
 光の中で、バーネットが微笑んだ。

 外はすっかり夜が明け、木々の緑に映える朝露が太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
 生きて、また朝の光を浴びることができた──生まれ変わったような、そんな清々しい気分だ。
「隊長」
 呼び止めると、彼は振り返った。
「なんだ?」
「あの……映画、一緒に行ってもらえませんか」
 自分でも驚くほどすらすらと言葉が出てきた。こんなに素直に、想いを口にできたのは多分初めてだ。
 バーネットはニヤリと笑った。
「しょうがねぇな。オレが一緒に行ってやるよ」
 自分が笑顔を浮かべていることに、カレンは気づいていた。

                                  −了−




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